4. からっぽなのに
「きみ、ブレイン・ユニット、入ってないよね。なんで動けるの?」
「おどろかせてしまいましたね。申し訳ありません。」
「なんで? なんで動けるんだ?」
「私には、通常のものとは異なる型のブレイン・ユニットが搭載されています。」
「異なる型?」
「はい。私は、ブレイン・ユニットのテスト用として開発されました。実際のロボットに搭載された状態でブレイン・ユニットが正常に動作するか、様々な環境でチェックを行うのです。処理が追い付かず動作不良を起こしてしまったとしても、強制終了させることができます。強制終了後、私のブレイン・ユニットが処理を引継ぎ、帰還することができます。データ収集・分析も可能です。そして・・・。」
「わかった。わかった。特別なんだね。」
「はい。私は高性能で特別です。」
「高性能で特別なロボットが、なぜボロボロなの?」
「わかりません。トラブルに巻き込まれたのかと。」
「トラブル?」
「はい、他のロボットと一緒に輸送される途中に、いきなりブレイン・ユニットをセットされ、そして輸送機が爆発して、そして投げ出されて、そして落下して・・・」
「うわぁ、すごいね。それで、壊れちゃったの?」
「はい。」
「じゃあ、あいつが奪って行ったブレイン・ユニットは、きみのじゃ無いんだね?」
「はい。」
「あのブレイン・ユニット、よほど大切なものだったのかなぁ。高く売れたのかも。」
「え?」
「うそうそ。ブレイン・ユニットは欲しかっただけ。売ったりしないよ、もったいない。」
「私も売られるのかと思いました。」
「売るよ!」
「え?」
「うそうそ!」
「でも、きみ、珍しいんでしょ?」
「はい!」
「どこへ運ばれる途中だったの?」
「・・・」
「どこへ運ばれる途中だったの?」
「・・・」
「どこ?」
「廃棄施設・・・。」
「え?」
「廃棄施設です。」
「珍しい型なのに?」
「はい。」
「もったいないよね。」
「はい、何かの間違いかと。」
「本当に、珍しい型なの?」
「はい! 他のロボットたちと一緒にしないでください。」
「ふーん。」
「何かの間違いか、もしくは私の価値を正しく理解できていなかったのか・・・。」
「運ばれる前は、どこで何をしていたの?」
「工場で清掃をしていました。」
「お掃除ロボット・・・。」
「・・・」
「ずっと、お掃除?」
「はい、7年ほど。」
「長いね。」
「その前は?」
「ブレイン・ユニットのテストです。テスト業務が無くなり、その後は清掃業務のブレイン・ユニットがセットされ、今の工場に配属されました。」
「ふーん、じゃあ、知らなかったのかも。」
「えっ?」
「だって珍しい型なんでしょ? しかも、お掃除ロボット用のブレイン・ユニットがセットされてたんでしょ? お掃除している間に忘れられちゃったとか。」
「そうでしょうか・・・。記録もあるでしょうし。」
「だって、ぼくも知らなかったもん。」
「あなたは子供でしょう?」
「バカにすんな! ロボットには詳しいよ。自分でも組み立てているし!」
「確かに、あなたがプログラムしたブレイン・ユニットは良いものでした。」
「でしょ?」
「でも、その前にセットされたブレイン・ユニットは、もっと良いものでした。」
「えっ、わかるの?」
「はい、解析も得意分野なので。でも、解析できない部分があるんですよ。」
「解析したんだ。」
「今も解析中です。」
「えっ、どういうこと?」
「全部コピーしましたから。」